概要

角館のお祭りは、秋田県仙北市角館町で毎年9月7日から9日にかけて行われる、城下町・角館の総鎮守である神明社と、勝楽山成就院薬師堂の祭典に合わせて催される祭礼行事です。正式名称を「角館祭りのやま行事」といい、1991年(平成3年)2月21日に国の重要無形民俗文化財に指定され、2016年には「山・鉾・屋台行事」の一つとしてユネスコ無形文化遺産に登録されました。祭りは、江戸時代から残る町並みを舞台に、各町内(丁内)から出される武者人形や歌舞伎人形を飾った大型の山車「やま」を曳き回すことが最大の特徴です。

この祭りは、地域の繁栄や商売繁盛、家族の無病息災を祈願するもので、何百年もの間、開始当初からその伝統的な姿を受け継ぎながら続けられてきました(近年は感染症の影響で中止された年もあり、最新の開催可否は公式サイトで確認すること)。町内では、祭りを統括する「張番」と呼ばれる祭り宿を設け、神輿の渡御を迎えるとともに、曳山の運行体制を整えます。祭り期間中は、軽快な「飾山囃子(おやまばやし)」が町中に響き渡り、優雅な手踊りと勇壮な曳き廻し、そして豪快な「やまぶっつけ」が観客を魅了します。

歴史・由来

角館祭りのやま行事の起源は、「佐竹北家日記」の記録に求められます。その初出年には諸説があり、江戸時代前期に「鹿島祭り」として行われていたとも、より後年の記録に初めて名が見られるとも伝えられます。当初は薬師如来の縁日にあたる12月8日に行われていたものが、時代の変遷を経て現在の9月7日から9日という日程に定着したとされます。いずれにせよ、少なくとも江戸時代には城下町角館の行事として続いてきたことがうかがえます。

祭りの根底には、角館地方に古くから伝わる自然崇拝と薬師信仰の習合があります。言い伝えによれば、薬師如来が農耕の神である「山の神」から「田の神」に姿を変えて豊作をもたらした後、12月8日に再び山へ帰るという信仰がありました。このため、祭りでは神の依代(よりしろ)として、高さ4~5丈(約15メートル)の骨組みの頂に目籠を用い、黒木綿をかけて松を配した「山」を造り、神を迎えるという形式がとられました。

角館は佐竹北家の城下町として発展しましたが、この祭りは武士の居住する「内町」ではなく、町人の住む「外町」を中心に行われてきました。町人の居住区は「丁」という単位で組織され、この「丁内」ごとに曳山が出されるという体制が、外町の発展とともに祭りの規模を拡大させていったと考えられます。祭りは、元々は担ぎ山(舁き山)として行われていましたが、大正2年(1913年)頃から、現在の「曳山」に変わったとされています。

佐竹北家の日記に初見されることからもわかるように、祭りは代々の領主や地域の有力者とも深く関わってきました。かつては、曳山が佐竹北家の殿様の前で上覧(披露)するために運行される「上り山」と、その帰りの「下り山」の区別がありました。この伝統は現在も続いており、佐竹北家の子孫の前で舞が奉納されるという習わしが大切に守られています。このように、長い歴史の中で培われた格式と地域の結束が、この祭りの基盤となっています。

見どころ

曳山(ひきやま) 曳山は、毎年祭りのために組み立てられる大型の山車です。主にナラ等の木材で組まれ、かつては縄で組まれていたものの、現在はボルトや金具でしっかりと固定されています。山車の前方には「水屋(みんじゃ)」と呼ばれる少し斜めになった部分があり、ここに等身大の武者人形や歌舞伎人形が1体から3体ほど飾られます。後方には「送り人形」または「送りっこ」と呼ばれる、滑稽な出で立ちをした人形が2~5個の酒樽とともに配置され、その前後の人形の間、山車の中央には黒い布で覆われた「もっこ」と呼ばれる山が表現されています。

飾山囃子(おやまばやし)と手踊り 曳山の上では、囃子方(はやしかた)が篠笛、大太鼓、小太鼓、鼓、摺鉦(すりがね)、三味線などの楽器を演奏し、それに合わせて踊り手が手踊りを披露します。この囃子は「飾山囃子」と呼ばれ、江戸囃子の流れをくむもので、幕末期に角館武士の能楽愛好者と町人の長唄愛好者が協力して現在の原型を作ったとされています。囃子の曲目は、曳山の進行状況によって「上り山囃子」「道中囃子(下り山囃子)」「拳囃子」「二本竹」などがあり、他にも「秋田甚句」などの民謡を編曲したものも演奏されます。囃子が途絶えることは「死曳山(しにやま)」と見なされるため、運行中は決して演奏を止めてはいけません。

やまぶっつけ(激突) この祭り最大の見どころは、曳山同士が激しくぶつかり合う「やまぶっつけ」です。角館の通りは狭く、2台の曳山がすれ違うことが難しいため、運行中に向かい合った曳山は、どちらが道を譲るか、または引き返すかを巡って「交渉」と呼ばれる話し合いを行います。この交渉が決裂した場合、曳山同士は全力でぶつかり合う「やまぶっつけ」に突入します。この戦いは祭りのクライマックスであり、特に9月9日の夜に発生することが多いですが、いつどこで起こるかを予測するのは難しく、その偶発性もまた見どころの一つとなっています。

交渉(こうしょう) 「やまぶっつけ」の有無を決定づけるのが、黄色い襷をかけた2名の「交渉員」による「交渉」です。原則として、神社参拝に向かう「上り山」に通行の優先権があるとされていますが、交渉員はそれぞれの曳山の現状や道の優先権を主張し合います。交渉員は、曳山の最高責任者である「責任者」と連絡を取り合いながら交渉を進め、曳山が民家の前で手踊りを披露する際にも、その家を訪ねて意向を伝える役割を果たします。この独特な交渉プロセスが、祭りの秩序を維持する上で重要な役割を担っています。

置山(おきやま) 祭り会場の所定の場所には、移動しない「置山」が設置されます。具体的には、神明社の鳥居前、成就院薬師堂前、そして通称「立町」の十字路の3か所に設けられます。これらの置山は、曳山と同じように黒っぽい木綿布で覆われた山形をしており、頂には必ず目籠が用いられるなど、伝統的な造りが守られています。往時は各丁内の空き地や有力者の庭に設けられていたと伝えられており、祭りの期間中、町の人々や観光客の目を楽しませます。

張番(はりばん) 各丁内には「張番」と呼ばれる祭り宿が設けられます。張番は、曳山を運行するための拠点であり、座敷の中央には天照皇大神と薬師瑠璃光如来の掛軸が掛けられます。道に面した中央には張番の表礼を立て、松やススキなどで飾られます。祭りの期間中、年番長などの役員がここに詰めて、他丁から交渉に来る若者の相手をしたり、曳山の運行を承認したりします。この張番を中心とした組織が、祭りを円滑に運営するための基盤となっています。

開催情報・アクセス

  • 開催名称: 角館祭りのやま行事(角館のお祭り)
  • 開催場所: 秋田県仙北市角館町 町内全域(主に江戸時代から残る町並み周辺)
  • 開催時期: 例年9月7日~9日(最新の日程・実施可否は公式サイトで確認)
  • 交通アクセス:
  • 鉄道:JR田沢湖線・秋田新幹線「角館駅」下車、徒歩すぐ
  • 車:東北自動車道「盛岡IC」から約1時間10分、または秋田自動車道「大曲IC」から約40分
  • 問い合わせ先: 仙北市観光情報センター「角館駅前蔵」(電話番号: 0187-54-2700)
  • 参加料金: 見学無料
  • 主催: 角館祭りのやま行事実行委員会
  • 公式サイト: https://tazawako-kakunodate.com/

周辺情報

角館は「みちのくの小京都」と呼ばれる、歴史情緒あふれる城下町です。祭りのメイン会場となるのは、武家屋敷通り(武家屋敷地区)とその周辺の町並みで、黒板塀が続く通りには、江戸時代の面影が色濃く残っています。このエリアは、曳山が運行する主要なルートにもなっており、伝統的な建築物と祭りの山車のコラボレーションは、訪れる人々に独特の景観を提供します。また、角館駅前には観光情報センター「角館駅前蔵」があり、祭りの最新情報や周辺マップを入手することができます。

祭りの期間中は、町内が全面通行止めになるエリアがあるため、車での来場は周辺の臨時駐車場を利用することになります。公共交通機関である秋田新幹線の利用が便利で、東京駅から約3時間15分で角館駅に到着します。駅周辺には、観光客向けの飲食店や土産物屋が数多く立ち並んでおり、地元の郷土料理である「きりたんぽ」や「比内地鶏」などを楽しむことができます。

祭り以外の時期でも、角館は四季折々の美しさを見せる観光地として知られています。春には武家屋敷のシダレザクラが有名で、多くの観光客で賑わいます。秋には紅葉が美しく、冬には雪景色が町を静かに包み込みます。また、近隣には田沢湖や乳頭温泉郷などの温泉地もあり、祭り見物と合わせて観光を楽しむことができます。角館の歴史と文化に触れるには、佐竹北家の歴史を伝える資料館や、伝統工芸品である「樺細工」の工房を訪れるのも良いでしょう。

関連情報

  1. 文化財指定: 1991年(平成3年)2月21日に国の重要無形民俗文化財に指定。
  2. ユネスコ無形文化遺産: 2016年に「山・鉾・屋台行事」の33件の構成要素の一つとして登録。
  3. 角館總鎭守神明社: 祭りの中心となる神社で、例年9月7日には宵宮祭、8日には神輿渡御が行われる。
  4. 勝楽山成就院薬師堂: もう一つの祭典の中心寺院で、例年9月8日には祭典開白法要、9日には御輿巡行が行われる。
  5. 曳山の構造: 曳山は、前担木・横担木・後担木・欄干・人形・もっこ・車・引き手用ロープなどから構成され、大正2年(1913年)から現在の形になったとされる。
  6. 飾山囃子の保存: 祭りで演奏される「飾山囃子」は、1973年(昭和48年)に記録作成等の措置を講ずべき無形の民俗文化財に選択された。
  7. 祭りの日程: 9月7日は神明社の宵祭り、8日は神明社の本祭りと薬師堂の宵祭り、9日は薬師堂の本祭りという構成になっている。
  8. 曳山の台数: 1997年(平成9年)より、曳山は18台となり、現在もその台数で祭りが行われている。

出典・関連リンク

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