概要

唐津くんち(からつくんち)は、佐賀県唐津市の唐津神社の秋季例大祭であり、毎年11月2日から4日にかけて行われる、唐津を代表する秋の祭礼である。漆と金箔で彩られた14台の巨大な「曳山(ひきやま)」が、笛・太鼓・鉦の囃子に乗って旧城下町を勇壮に巡行する姿で全国的に知られ、約400年の歴史を誇る。国の重要無形民俗文化財に指定され、ユネスコ無形文化遺産「山・鉾・屋台行事」を構成する祭礼の一つでもある。

「くんち」とは九州北部で秋の収穫祭・例大祭を指す言葉で、長崎くんち・博多おくんちと並び称される。唐津くんちの最大の特色は、鯛・獅子・兜・龍・鳳凰・宝船といった多彩な題材をかたどった曳山の造形美と、それを数百人の曳き子が曳いて街を練り歩く迫力の共存にある。町人たちが競って新調してきた曳山は、唐津の富と美意識、そして共同体の誇りの結晶である。

歴史と由来

唐津くんちは、唐津神社の秋季例大祭として営まれてきた祭りである。祭りそのものの由来は古く、江戸時代前期にはすでに秋の例大祭として行われていたと伝えられるが、現在の祭りを特徴づける豪華な曳山が登場するのは江戸時代後期のことである。収穫への感謝と地域の繁栄を願う秋祭りが、曳山という華やかな要素を得て、唐津を代表する祭礼へと発展していった。

現存する曳山のうち最古とされるのは、文政2年(1819年)に一番曳山として奉納された「赤獅子」である。以後、唐津の各町がそれぞれの誇りをかけて競うように曳山を新調し、獅子・鯛・兜・龍・鳳凰・宝船・武者など多彩な題材の曳山が次々と生み出された。以後、明治9年(1876年)までに合計15台の曳山が奉納されたが、そのうち1台が明治中期に焼失し、現在は14台が現存している。約60年をかけて町ごとに積み上げられた曳山群は、唐津の町人文化の到達点といえる。

曳山は、木組みの骨格に和紙を幾層にも貼り重ね、漆を塗り重ねて金箔などで装飾する「一閑張り」の技法で作られている。重さは2〜3トンにも及ぶ大型のものが多く、その堅牢さと華やかさは、唐津の職人たちの高い技術に支えられている。百数十年を経た曳山が今なお現役で巡行できるのは、各町が修復と保存を絶やさず受け継いできたからにほかならない。

唐津くんちは、戦乱や戦争の時代を越えて途切れることなく受け継がれてきた。その歴史的・文化的価値が認められ、1980年(昭和55年)に国の重要無形民俗文化財に指定された。さらに2016年(平成28年)には、全国各地の同種の祭礼とともにユネスコ無形文化遺産「山・鉾・屋台行事」の一つとして登録され、国際的にもその価値が認められている。町人が育て、世代を超えて守ってきた曳山の祭りは、唐津のアイデンティティそのものである。

見どころ

14台の曳山の巡行 唐津くんち最大の魅力は、漆と金箔に彩られた14台の曳山が一堂に会して街を巡行する光景である。赤獅子・青獅子・亀と浦島太郎・鯛・鳳凰丸・飛龍・七宝丸など、それぞれ趣向の異なる曳山が列をなして進む様は、まるで動く美術品の行列のようである。町ごとの意匠の違いを見比べながら巡行を追うのも、この祭りならではの楽しみである。

お旅所神幸の曳き込み 祭りのクライマックスが、11月3日に行われる「お旅所神幸(おたびしょしんこう)」である。14台の曳山が唐津神社から西の浜のお旅所まで巡行し、砂地に一台ずつ勢いよく曳き込まれる。車輪が砂にめり込むなかを、数百人の曳き子が「エンヤ、エンヤ」の掛け声とともに渾身の力で曳く姿は、この祭り随一の見せ場である。重い曳山を砂の上で動かす難しさが、かえって曳き子たちの結束と迫力を際立たせる。

曳き子たちの掛け声と囃子 曳山を動かすのは、法被姿の曳き子たちである。「ヤッサー、ヤッサー」「エンヤ、エンヤ」といった掛け声が街に響きわたり、笛・太鼓・鉦による囃子と一体となって祭りの気分を高めていく。一台の曳山を曳くには大勢の呼吸を合わせる必要があり、掛け声はその心を一つにするためのものでもある。唐津の人々が幼い頃から親しんできた囃子の音色は、この土地の秋の記憶そのものである。

夜を彩る提灯の曳山 昼の勇壮さとは趣を変え、夜には曳山に提灯の灯りがともされる。漆塗りの曳山が闇のなかにほのかに浮かび上がる光景は幻想的で、昼間とはまったく異なる美しさを見せる。11月2日の宵曳山(よいやま)では、灯りをまとった曳山が街を巡り、祭りの幕開けを告げる。同じ曳山が昼と夜で二つの表情を持つことも、唐津くんちの奥深い魅力である。

一閑張りの造形美 間近で見る曳山は、その精緻な造形と重厚な質感に圧倒される。和紙を貼り重ねて漆で仕上げる一閑張りの技法によって生み出された曳山は、金箔や極彩色で豪華に装飾され、細部にいたるまで職人の技が息づいている。獅子の勇ましさ、鯛の躍動感、兜や宝船の意匠など、それぞれの曳山に込められた工夫と美意識を鑑賞できる。

町を挙げた祭りの継承 唐津くんちは、曳山を持つ各町が主体となって受け継いできた祭りである。曳山の保存・修復、囃子の稽古、祭りの運営まで、町ぐるみで担われており、子どもから大人まで世代を超えて祭りに関わる。百数十年を経た曳山が今も現役で走り続けている背景には、こうした町人の絶え間ない継承の努力がある。祭りを支える共同体の姿そのものが、唐津くんちの根幹をなす見どころである。

開催情報・アクセス

  • 開催地: 佐賀県唐津市の唐津神社および唐津市中心部の旧城下町一帯
  • 開催時期: 毎年11月2日〜4日(唐津神社の秋季例大祭)
  • 主な行事: 宵曳山(11月2日)、お旅所神幸(11月3日・西の浜への曳き込み)、翌日祭・町廻り(11月4日)
  • 曳山の数: 14台(各町が奉納した曳山)
  • アクセス: JR唐津駅から徒歩約10分。期間中は交通規制・混雑が予想されるため公共交通機関の利用が推奨される
  • 観覧料・通年展示: 巡行の沿道観覧は無料。曳山展示場では年間を通して全14台の曳山を見学できる。具体的な日程は毎年主催者・唐津神社の発表で確認が望ましい

周辺の見どころ

唐津くんちの舞台となる唐津市は、玄界灘に面した肥前国北部の城下町である。市のシンボルである唐津城(舞鶴城)は海を望む高台に建ち、天守からの眺望が美しい。市内には、辰野金吾(東京駅を設計した唐津出身の建築家)の監修による旧唐津銀行など、近代建築も残り、城下町の歴史と近代の記憶が同居する町並みを楽しめる。

唐津といえば、日本三大松原の一つに数えられる「虹の松原」が名高い。玄界灘沿いに約4.5キロにわたって続く黒松の林は圧巻で、鏡山の展望台から見下ろす虹の松原と唐津湾の眺めは、この地を代表する景観である。祭りの熱気に触れたのち、雄大な自然のなかで静かなひとときを過ごすことができる。

さらに郊外へ足を延ばせば、イカの活き造りで全国的に知られる呼子(よぶこ)の朝市や、豊臣秀吉の朝鮮出兵の拠点となった名護屋城跡など、海の幸と歴史の両方を堪能できる。焼き物の里として名高い有田や、弥生時代の環濠集落・吉野ヶ里遺跡など、佐賀県内の名所と組み合わせた周遊の拠点としても、唐津は魅力的である。

関連情報

  • 開催時期: 11月2日〜4日(秋)。クライマックスのお旅所神幸は11月3日
  • 所在地: 佐賀県唐津市・唐津神社(旧城下町一帯)
  • 起源・曳山数: 唐津神社の秋季例大祭。現存最古の曳山は文政2年(1819年)の「赤獅子」。文政2年から明治9年(1876年)までに計15台が奉納され、うち1台が明治中期に焼失、現在14台が現存
  • 曳山: 漆と金箔で装飾した「一閑張り」の大型山車。重さ2〜3トン。鯛・獅子・兜・龍・鳳凰・宝船など多彩な題材
  • 文化財: 1980年(昭和55年)国の重要無形民俗文化財に指定。2016年(平成28年)ユネスコ無形文化遺産「山・鉾・屋台行事」に登録
  • 「くんち」: 九州北部で秋の例大祭を指す語。長崎くんち・博多おくんちと並び称される

出典・関連リンク

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