春日若宮おん祭は、奈良県奈良市の春日大社の摂社である若宮神社で毎年12月15日から18日にかけて執り行われる祭礼であり、国の重要無形民俗文化財に指定されている。880年以上の歴史を持つ大和地方最古の祭礼の一つで、平安時代から現在まで一度も中断することなく続けられてきた稀有な伝統行事である。

おん祭の起源は1136年(保延2年)に遡る。当時、大和国が長雨と疫病に苦しんでいた折、関白藤原忠通が若宮神に祈願して五穀豊穣と疫病退散を願ったことが始まりとされる。以来、興福寺と春日大社の僧侶・神官、そして奈良の民衆が一体となって受け継ぎ、戦国時代の戦乱期や明治の神仏分離令、第二次世界大戦の混乱期も含めて、880年以上にわたり毎年欠かさず執行されてきた。

祭礼の中心は12月17日に行われる「お渡り式」である。正午、若宮神社の御神霊を一の鳥居前の御旅所にお遷しする神事に続き、興福寺南大門跡から県庁前を経て、御旅所までの約1キロメートルの道のりを、平安時代から江戸時代までの各時代の装束をまとった行列が練り歩く。日使、神子、巫女、細男、田楽、猿楽、競馬、流鏑馬、大名行列など、約1,000人が参加する壮麗な時代絵巻となる。これらの芸能は中世以来の古い形を伝えるもので、能楽の源流とされる猿楽、田植え踊りの原型である田楽など、日本芸能史の生きた資料として学術的にも極めて重要である。

御旅所では夜を徹して神楽、東遊、田楽、細男、能、狂言、舞楽などの伝統芸能が奉納される。これらの芸能奉納は深夜から翌18日未明まで続き、薪能と並ぶ古典芸能の聖地としての奈良の格式を示す貴重な機会となる。観覧は自由で、寒さの厳しい12月の夜の屋外で繰り広げられる芸能を間近で見ることができる。

春日大社は世界遺産「古都奈良の文化財」の構成資産で、参道の燈籠と原始林に包まれた境内は祭礼期間以外も訪れる価値が高い。会場へはJR・近鉄奈良駅から春日大社方面のバスで約10分または徒歩約25分。東大寺、興福寺、奈良公園など徒歩圏内に世界的な文化遺産が集中しており、おん祭の見学と合わせて奈良の古都文化を深く体験できる。12月の奈良は冷え込みが厳しいため、十分な防寒対策が必要となる。


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