概要

京都・東山花灯路は、京都市東山区の東山山麓一帯で毎年3月上旬に開催されていた夜間散策イベントである。青蓮院から清水寺に至る約4.6キロメートルの散策路に、約2,400基の露地行灯が設置され、温かな灯りで彩られる。京都の伝統工芸である清水焼、北山杉、京銘竹、石工、金属細工などで作られた行灯が、早春の夜道を幻想的に照らし出す。

このイベントは、日中に比べて夜間の観光客が少なかった東山地域に、新たな夜の風物詩を創出する目的で始まった。寺社の多くは夜間拝観の時間制限があるため、祇園周辺を除けば夜の散策対象は限られていた。開催期間は約10日間と短いながら、毎年100万人以上の人出で賑わい、京都の早春を代表する観光イベントとして定着した。なお、令和3年度(2021年度)の開催をもって東山花灯路は終了しており、現在は過去の歴史的事実として語り継がれている。

歴史・由来

京都・東山花灯路は、平成15年(2003年)3月に第1回が開催された。京都・花灯路推進協議会が「京都の夜の新たな風物詩」を目指して立ち上げた事業であり、観光客の減少が懸念されていた冬季・早春の誘客促進策として企画された。当初から地元の伝統工芸事業者や寺社、芸術大学などが連携し、京都ならではの「雅」を醸し出すことを重視した。

開催場所として選ばれた東山山麓は、清水寺、知恩院、八坂神社、高台寺など多くの歴史的建造物が集積する地域である。これらの寺社は日中こそ多くの参拝者で賑わうが、夕刻以降は閉門するのが常であった。花灯路の実施に伴い、参加寺社が夜間特別拝観やライトアップを行うようになり、それまで観光客に知られていなかった夜の東山の魅力が広く認識されるようになった。

平成17年(2005年)12月には、同じコンセプトの「嵐山花灯路」が嵯峨・嵐山地域で開始された。嵐山花灯路も毎年12月に開催され、東山と嵐山の二大花灯路が京都の冬から早春の観光を支える柱となった。東山花灯路の過去最高の来場者数は137万4千人と公表されている。

しかし、令和3年度(2021年度)をもって東山花灯路は終了することが決定された。開始から20年の節目を迎えたことが区切りとされ、令和4年度以降は開催されていない。嵐山花灯路も令和3年(2021年)12月の開催をもって終了しており、両花灯路はその役目を終えた。最終回は令和4年(2022年)3月4日から13日までの10日間であった。京都府や京都市観光協会は終了の理由として、閑散期の誘客と夜観光・宿泊観光の促進という当初の目的に対し、月ごとの観光客数の繁閑差が縮小して年間を通じて観光客が訪れるようになったこと、民間によるライトアップイベントが各地で開催されるようになったことを大きな成果として挙げている。現在は「京都・花灯路」というイベントそのものが過去のものとなっているが、その記憶と文化遺産は京都の観光史に刻まれている。

見どころ

竹灯り・幽玄の川 円山公園内を流れる吉水の小川のせせらぎに、約1,000本の青竹の灯籠が設置されていた。これらの灯籠は竹の自然な風合いを活かしながら、川面に揺らめく灯りを映し出す。晴れた夜には幽玄の世界が広がり、訪れた人々を非日常の空間へと誘った。

華舞台(はなぶたい) ねねの道沿いの高台寺公園に特設された「華舞台」では、京都の伝統伎芸が披露されていた。邦楽の演奏や日本舞踊などが行われ、訪れた人は間近で伝統芸能に触れることができた。

大学のまち京都・伝統の灯り展 円山公園内では、京都の芸術系大学や短期大学の学生による作品展示が行われていた。「伝統の灯り」をテーマに、現代的な解釈で制作された行灯やオブジェが並び、伝統工芸と若い感性の融合が楽しめた。この展示は学生にとって実践的な発表の場となり、京都が「大学のまち」であることを象徴する取り組みでもあった。

花灯路文人回廊 青蓮院北側の「あおくすの庭」内に設置されたパネル展示では、京都東山ゆかりの芸術家10名の作品と歩みが紹介されていた。東山は多くの文人墨客が愛した土地であり、その文化的背景を学ぶ機会を提供していた。散策の合間に立ち寄ることで、単なる観光以上の深い知識を得られる仕掛けとなっていた。

花街・花灯路・人力車行列 イベント期間中、京都五花街の芸妓・舞妓が人力車に乗って祇園界隈や南座前、円山公園一帯を行列する催しが行われていた。この行列は花灯路の来場PRを兼ねており、華やかな衣装と人力車の風情が早春の町並みに映えた。観光客は偶然の出会いで芸妓たちの姿を楽しむことができ、京都ならではの優雅な一幕として記憶に残った。

お絵かき行灯 高台寺公園では、来場者がオリジナルデザインの行灯を作成できる「お絵かき行灯」体験が実施されていた。手のひらサイズの行灯に自由に絵を描き、その場で灯りを灯すことができる。完成した行灯は持ち帰り可能であり、旅の思い出としても好評であった。特に家族連れやカップルに人気が高く、参加型イベントとして花灯路をより親しみやすいものにしていた。

参加寺社の夜間特別拝観とライトアップ 青蓮院、知恩院、八坂神社、高台寺、圓徳院、清水寺、法観寺などが夜間特別拝観とライトアップを実施していた。各寺社の庭園や建築物が専門の照明技術によって幻想的に浮かび上がり、日中とは全く異なる表情を見せた。特に清水寺は令和2年(2020年)12月に「平成の大改修」が完了した後、改修後初めて花灯路期間中の夜間特別拝観が実現し、話題を集めた。

開催情報・アクセス

  • 開催時期: 例年3月上旬の約10日間、点灯は18時から21時30分まで行われていた。令和3年度(2021年度)をもって終了しており、最終回は令和4年(2022年)3月4日から13日までであった。
  • 開催場所: 京都市東山区、東山山麓の青蓮院から円山公園、八坂神社、ねねの道、二年坂、三年坂を経て清水寺に至る約4.6キロメートルの散策路。
  • 参加料金: 散策路の歩行は無料。各寺社の夜間特別拝観やライトアップは別途拝観料が必要であった。
  • アクセス(公共交通機関): 散策路北端の青蓮院へは地下鉄東西線「東山駅」から徒歩約5分。八坂神社へは京阪本線「祇園四条駅」から徒歩約5分。南端の清水寺へは市バス「清水道」または「五条坂」下車、徒歩約10分から15分。
  • アクセス(自家用車): 周辺には駐車場が少なく、イベント期間中は交通規制や混雑が予想されるため、公共交通機関の利用が推奨される。
  • 問い合わせ先: 事業はすでに終了しているため、後継の取組や周辺のライトアップについては京都市観光協会や京都府の観光情報で確認できる。

周辺情報

東山花灯路の散策路沿いには、京都を代表する寺社が密集している。北端の青蓮院は天台宗の三門跡の一つであり、本尊に「熾盛光如来」を祀ることから「光」との縁が深い。花灯路の期間中は宸殿前庭のライトアップや諸堂の夜間特別拝観が行われていた。青蓮院から南へ進むと知恩院があり、国宝の三門や御影堂がライトアップされる。知恩院は浄土宗の総本山として知られ、夜の闇に浮かぶ大きな伽藍は圧巻である。

円山公園は祇園の東側に位置し、東山花灯路の中核的な会場の一つであった。公園内には「祇園枝垂れ桜」で有名なシダレザクラがあり、花灯路期間中は早春のため開花前ではあるが、公園全体が灯りと花で彩られた。園内の吉水の小川では「竹灯り・幽玄の川」が設置され、高台寺公園では「華舞台」や「お絵かき行灯」などのイベントが行われた。円山公園から南へ進むと八坂神社があり、舞殿では芸妓・舞妓による奉納舞が行われていた。

散策路の南端に位置する清水寺は、ユネスコ世界遺産(古都京都の文化財)に登録されている。本堂の檜皮葺の葺き替えを含む「平成の大改修」は令和2年(2020年)に完了した。花灯路期間中の夜間特別拝観では、ライトアップされた本堂や三重塔が、紅葉や桜のない時期であるからこそ建築そのものの美しさを際立たせた。清水寺から北へ戻るルートでは、二年坂や三年坂の石畳の道が行灯に照らされ、京都らしい情緒を楽しむことができる。ねねの道は平成10年(1998年)に京都市内で初めて無電柱化された石畳の道である。

関連情報

  • 嵐山花灯路: 東山花灯路と同じコンセプトで、毎年12月に嵯峨・嵐山地域で開催されていた。令和3年(2021年)12月の開催をもって終了。
  • 京都・花灯路推進協議会: 東山花灯路と嵐山花灯路の主催団体。主管は京都・東山花灯路実行委員会が務めた。令和4年度以降は、使用していた行灯や照明器具を貸し出して地域や民間のライトアップを支援する後継事業へ移行している。
  • 参加寺社一覧: 青蓮院(天台宗)、知恩院(浄土宗)、八坂神社(神社)、高台寺(臨済宗建仁寺派)、圓徳院(高台寺塔頭)、清水寺(北法相宗)、法観寺(臨済宗建仁寺派)など。
  • 京都五花街: 祇園甲部、祇園東、宮川町、先斗町、上七軒の五つの花街。花灯路期間中はこれらの花街から芸妓・舞妓が人力車行列や奉納舞に参加していた。
  • 伝統工芸の協力: 露地行灯の制作には、清水焼(行灯の台座)、北山杉(灯籠の枠材)、京銘竹(竹灯籠)、石工(灯籠の基礎部分)、金属細工(金具類)など、京都の多様な伝統工芸が関わっていた。
  • 京都いけばな協会: 花灯路の「いけばなプロムナード」を担当。東山山麓の各所に生け花作品が展示され、灯りと花の共演を演出した。
  • 交通規制: 開催期間中は東山一帯で歩行者優先の交通規制が敷かれ、自動車の通行が制限される場合があった。臨時バスの運行や、観光客の分散誘導策も実施されていた。

出典・関連リンク

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