概要

黒船祭(くろふねさい)は、静岡県下田市で例年5月第3金曜日から日曜日にかけて3日間の日程で開催される祭である。この祭は、1854年(嘉永7年)に日米和親条約が締結され下田が開港地となった歴史を記念し、内外の先賢の偉業を顕彰するとともに世界平和と国際親善に寄与することを目的としている。下田市の観光協会や黒船祭執行会が主催し、期間中は市内各所で多様な催しが行われる。

黒船祭の名称は、ペリー提督が率いて日本に来航した軍艦群、いわゆる「黒船」に由来する。黒船祭は単なる観光イベントではなく、日米両国の交流を象徴する国際的な行事として定着しており、毎年多くの観光客が訪れる。祭の中心的な行事は、開港当時の歴史を再現するパレードや式典、そして両国関係の象徴である了仙寺や玉泉寺でのセレモニーである。

歴史・由来

黒船祭の起源は、1934年(昭和9年)に下田が開港80周年を迎えたことに遡る。当時の下田町では町の振興施策として水産業と観光業に注力しており、東京音頭の流行や神戸で開催された「みなとの祭」に触発され「何か一つ、ぱあっとやらなければ駄目だな」との思いで黒船祭が発案された。第1回黒船祭は同年4月20日から5月3日までの2週間という長期にわたって開催され、来賓として駐日米国大使ジョセフ・グルー夫妻や野村吉三郎海軍大将が駆逐艦「島風」で下田港に入港した。開港先賢慰霊祭を中心に、仮装提灯行列、開港記念展覧会、連日の花火打上げ、黒船に艤装した遊覧船の運航、黒船音頭の発表など、数多くの催しが盛大に行われた。

第1回の成功を受け、黒船祭は国際的な観光行事として定着していった。しかし、太平洋戦争の勃発により1941年(昭和16年)から1946年(昭和21年)までの6年間は中断を余儀なくされた。1947年(昭和22年)に7年ぶりに再開された第8回は、GHQの指導により日本国旗の掲揚が禁じられるなど制約のある中での開催となったが、翌1948年(昭和23年)の第9回からは日本国旗の掲揚が解禁された。戦後の1950年と1951年には横須賀市で開催されるなど一時的に下田を離れたが、1953年(昭和28年)の第14回(開国100周年)には下田公園内に開国記念碑が建造されて除幕された。

その後、1958年(昭和33年)の第19回では、下田町とペリーの出身地であるアメリカ・ロードアイランド州ニューポート市との姉妹都市提携成立が宣言された。1984年(昭和59年)には日米和親条約締結130周年を機に、ニューポート市でも「黒船祭」と称する催事が開始され、下田市からも友好使節団が派遣されるようになった。祭の実施形態も変化を遂げ、1967年(昭和42年)の第28回からは再現劇「下田条約調印」の上演が始まった。

1974年(昭和49年)には第35回が伊豆半島沖地震の影響により中止となった。2011年(平成22年)に予定されていた第72回も東日本大震災の影響で中止となり、代わりに市民有志によるチャリティーイベント「東日本大震災復興支援チャリティー下田元気祭」が開催された。2020年(令和2年)と2021年(令和3年)は新型コロナウイルス蔓延の影響により開催が中止または縮小され、2022年(令和4年)の第83回から3年ぶりに規模を縮小して再開、2023年(令和5年)の第84回で通常の3日間の日程に復帰した。

見どころ

ペリー上陸記念碑および開国記念碑への献花 下田港に面した稲生沢川河口付近にはペリー上陸記念碑が、下田公園内には開国記念碑がそれぞれ建立されている。これらの碑は、開国100周年にあたる1953年に建造されたもので、黒船祭の記念式典では両碑に花輪が捧げられる。参列者が静かに献花を行う様子は、祭りの娯楽色とは一線を画す厳かな一幕である。

再現劇「下田条約調印」 下田市中心部に位置する了仙寺の境内で、1854年に日米和親条約附録13か条が調印された史実に基づき、その一部始終をコミカルに描いた劇が上演される。了仙寺は実際に調印が行われた歴史的な寺院であり、その場で再現劇を見ることで当時の臨場感が甦る。見物客は笑いに包まれながらも、日米外交の重要な瞬間を追体験することができる。

公式パレード 市内の中心部を、米軍や自衛隊の音楽隊、アメリカンスクールのドリルチーム、地元の中高の吹奏楽部などが行進するパレードが行われる。駐日米国大使や静岡県知事、下田市長を乗せたオープンカーも列に加わり、沿道は多くの観客で埋め尽くされる。星条旗と日の丸が風に揺れる中、国際親善の象徴とも言える光景が広がる。

黒船将兵墓前祭 黒船祭初日に、市内柿崎の玉泉寺境内で米海軍主催により執り行われるセレモニーである。玉泉寺にはペリー艦隊の乗組員5名の墓所があり、同寺がアメリカ総領事館として使われた歴史にも由来する。香煙が立ち込める中、日米関係者が共に故人を悼み、平和への祈りを捧げる。

海上花火大会 黒船祭初日の夜、下田港の海上で花火が打ち上げられる。港の水面に映る花火と、ペリー来航を想起させる黒船のシルエットが、祭の夜を彩る。観覧場所は港周辺の遊歩道や公園から無料で楽しめるが、混雑するため早めの場所取りが必要である。

サンセットコンサート 祭2日目の夕刻、下田市民文化会館大ホールを会場に米軍や自衛隊の音楽隊によるコンサートが開催される。入場は無料でありながら、本格的な吹奏楽の演奏が楽しめる。夕暮れの港町に響く日米両国の親善音楽は、祭のクライマックスを華やかに飾る。

開国市 市内の商店街を中心に、歩行者天国や露店広場が設けられ、大道芸やストリートライブが繰り広げられる。全国各地から集まったゆるキャラの参加や、武士・町娘・軍人などの衣装を身にまとった仮装行列も行われ、市民参加型の賑わいを見せる。露店では地元の海産物や郷土料理が振る舞われ、観光客と地元住民が一体となって祭を盛り上げる。

開催情報・アクセス

  • 開催時期: 例年5月第3金曜日からその週の日曜日までの3日間。最新の日程・実施可否は公式サイトで確認。
  • 開催場所: 静岡県下田市。主な会場は下田公園、下田市民文化会館、了仙寺、玉泉寺、下田港周辺、市内中心部商店街。
  • アクセス:
    • 鉄道: 伊豆急行線「伊豆急下田駅」下車。東京方面から特急「踊り子」または「サフィール踊り子」で約2時間30分。
    • 自家用車: 東名高速道路「厚木IC」または「沼津IC」から伊豆スカイライン経由、または新東名高速道路「長泉沼津IC」から伊豆縦貫道経由。市街地は祭期間中交通規制あり。
    • 高速バス: 東京駅八重洲南口から東海バス・JRバス関東「伊豆急下田駅」行き(約3時間)。
  • 料金: 沿道でのパレード観覧や公園での花火観覧は無料。有料観覧席が設置される場合があるが、料金は年により変動するため公式発表を参照。サンセットコンサートは入場無料だが、年によって事前予約制となる場合がある。再現劇「下田条約調印」も基本的に無料で観覧可能。
  • 駐車場: 市内に臨時駐車場が設けられるが、台数に限りがあるため公共交通機関の利用が推奨される。祭期間中は中心部で交通規制が敷かれ、マイカーでの進入が困難なエリアがある。
  • 問い合わせ: 下田市観光交流課(黒船祭執行会事務局)が窓口となる。電話番号: 0558-22-3913(下田市観光協会)。

周辺情報

下田市は伊豆半島の南東端に位置し、美しいリアス式海岸と温暖な気候で知られる観光都市である。黒船祭の拠点となる下田公園は、下田港を見下ろす高台にあり、園内からはペリー艦隊が停泊した下田港の全景が一望できる。公園内には開国記念碑の他、市の文化施設である下田市民文化会館や、戦後に建造された水族館「下田海中水族館」も立地している。

市内にはペリー来航にまつわる歴史的建造物が点在する。玉泉寺は安政3年(1856年)にアメリカ総領事館が置かれた寺院であり、境内には初代総領事タウンゼント・ハリスの上陸記念碑やペリー艦隊乗組員の墓所が現存する。了仙寺は日米和親条約附録の調印が行われた寺院で、本堂や庭園は当時の面影を残す。これらの寺院は祭期間中、特別公開や展示が行われることが多い。

また、下田市は食文化や温泉も魅力である。下田港では伊勢エビやアワビ、金目鯛などの水揚げがあり、祭の露店や周辺の飲食店ではこれらを使った料理が味わえる。市内には「下田温泉」と呼ばれる温泉地帯があり、ペリーロード沿いには情緒ある旅館やホテルが立ち並ぶ。黒船祭と併せて、下田の自然や歴史をゆっくりと楽しむことができる。

関連情報

  • 黒船祭公式サイト:
  • 姉妹都市提携: 下田市はペリーの出身地であるアメリカ・ロードアイランド州ニューポート市と1958年に姉妹都市提携を結んでおり、相互交流が続けられている。2008年には姉妹都市提携50周年を記念したタイムカプセルが埋設され、100周年の2058年に開封予定である。
  • ぺるりん: 2015年に下田市のPRマスコットキャラクターとして「ぺるりん」がお披露目された。ペリー提督と黒船をモチーフにしたデザインで、祭のパレードやイベントに登場することがある。
  • 黒船音頭: 第1回黒船祭の際に、作詞・西條八十、作曲・中山晋平によって制作された楽曲。一時途絶えていたが、2009年の第70回で11年ぶりに復活披露された。
  • ペリーロード: 下田市の観光名所である約300メートルの石畳の小路。両側には土産物店や飲食店が軒を連ね、黒船祭期間中はキャンドルカフェなどのイベントが行われることがある。
  • 防災・中止履歴: 黒船祭は1974年の伊豆半島沖地震、2011年の東日本大震災、2020年及び2021年の新型コロナウイルス蔓延により中止された。開催可否は毎年、最新の社会情勢や気象条件を踏まえて判断される。
  • クラウドファンディング: 2024年(第85回)からクラウドファンディングによる資金調達が試みられている。2025年(第86回)には目標額100万円に対し101万円あまりの支援が集まった。今後の運営資金確保の手段として定着しつつある。

出典・関連リンク

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