概要

国府祭(こうのまち)は、毎年5月5日の端午の節句に神奈川県中郡大磯町国府本郷で行われる歴史的な祭礼です。神奈川県指定無形民俗文化財(1978年6月23日指定)に指定されており、旧相模国内の六つの神社が一堂に会する祭りとして知られています。別名「天下祭」「端午祭」とも呼ばれ、平安時代から続く相模国総社の祭礼です。

祭りは大きく二つの会場で構成されます。一つは神揃山(かみそろいやま)と呼ばれる神聖な場所で行われ、もう一つは大矢場(おおやば。現在の馬場公園)で行われます。六所神社が鎮座する大磯町国府本郷は、かつて相模国の国府(地方行政の中心)が置かれた地であり、国府祭はその歴史的遺産を今に伝える重要な民俗行事です。

歴史・由来

国府祭の起源は諸説あり、正確な成立年は不明です。天保12年(1841年)成立の『新編相模国風土記稿』巻之40には、この祭事は養老年間(717年-724年)に始まったと伝えられるが詳細は不明と記されています。また『吾妻鏡』に記事が見えることから、少なくとも11世紀には既に成立していたと考えられています。

律令制度の確立とともに、地方の国々には国司(こくし)が置かれました。国司はその国の大社を参拝する制度がありましたが、巡拝には多くの人手や費用、日数がかかることから、やがて国府近くの神社に各社の御分霊を祀るようになりました。これが総社(そうしゃ)の起こりであり、六所神社は旧相模国の総社としての役割を担っています。

一説では、相模国は元々「相武(さがむ)」と「磯長(しなが)」という二つの国が合併して成立したとされています。その際、相武国最大の神社である寒川神社と磯長国最大の神社である川勾神社のどちらを合併後の一宮にするかで論争が起こりました。この争いを神事化したのが「座問答(ざもんどう)」であり、国府祭の中心的儀式として現在も継承されています。

本来は2月4日に行われていましたが、弘安5年(1282年)に5月5日に改められたと伝えられています。国府祭は「コウノマチ」と読むのが正しく、「国府」を「コウ」、「祭」を「マチ」と読む古い呼び名が残っています。六所神社の社伝によれば、「鷺の舞」は平安時代に国司をはじめ貴族をもてなすための舞であったと言われています。

見どころ

神揃山への入山と着御祭 朝、一宮から五宮の各神社で「発御祭」が執り行われた後、神輿が神揃山へ向けて出立します。五社の神輿が神揃山に到着すると「着御祭(ちゃくぎょさい)」が行われ、各社の到着を祝う神事が執り行われます。この様子は、平安時代に国司が国内の神々を巡拝していた風景を彷彿とさせます。

座問答(ざもんどう) 正午になると、花火を合図に神揃山で「座問答」の神事が行われます。忌竹で四方を固めた場所で、一宮・寒川神社と二宮・川勾神社の神主が交互に三回ずつ、虎の皮を祭壇に無言で近づけることにより闘争を表現します。その後、三之宮・比々多神社の神主が「いずれ明年まで」と仲裁の声を上げて神事を終えます。この神事は1,000年以上行われているとされ、一宮の地位を巡る争いを儀式化した象徴劇です。

鷺の舞(さぎのまい) 大矢場の舟形舞台で、六所神社の神輿が入場すると「鷺の舞」が奉奏されます。鷺の舞は「流し」と「舞路」の二つの曲で構成され、舞路では「鷺の舞」「龍の舞」「獅子の舞」の三種が披露されます。鷺の舞は天下泰平、龍の舞は五穀豊穣、獅子の舞は厄災消除を祈願すると伝えられており、舞台が船の形をしているのは平安時代の貴族文化の名残です。

神対面神事と守公神の奉納 各社が大矢場に集まると、七十五膳の山海の幸が献上され、一宮から五宮の宮司が分霊である守公神(しゅこうしん)を総社に奉る「神対面神事」が行われます。この守公神は1年間、相模国の守護神として総社である六所神社に祀られます。この儀式は、国内を守る五社の神々が親神さまに会うためのものとも言われています。

国司奉幣と神裁許 続いて、大磯町長が国司として各神社に幣帛(へいはく)を捧げる「国司奉幣」が行われます。最後に六所神社の宮司が一宮から五宮を巡拝する「神裁許」を行い、神事全体が終了します。これらの儀式は、律令時代の国司による巡拝の形式を現代に伝える貴重なものです。

粽(ちまき)行事 三之宮・比々多神社では、社人が小餅の詰まった俵を頭上に掲げて地中に落とすことを繰り返す「粽行事」が行われます。破れた俵の中から小餅を取り出して参集の人々に撒き、この小餅を食べると病気をしないと言われています。この行事は白鳳時代以来1,300年以上の伝統を保持する神事です。

開催情報・アクセス

  • 開催時期:例年5月5日。最新の開催日程・実施可否は公式サイトで確認。
  • 開催場所:神奈川県中郡大磯町国府本郷 神揃山および大矢場(馬場公園)
  • アクセス:JR東海道線「大磯駅」下車。またはバス「国府新宿駅」下車徒歩5分。
  • 料金:沿道での観覧は無料。特別席や有料観覧席の有無は年により変動するため、公式発表を参照。
  • 主催:六所神社(所在地:神奈川県中郡大磯町国府本郷935、電話番号:0463-71-3737)
  • 駐車場:周辺に臨時駐車場が設けられる場合があるが、台数に限りがあるため公共交通機関の利用が推奨される。

周辺情報

大磯町は相模湾に面した歴史ある町で、国府祭の舞台となる国府本郷一帯はかつて相模国の国府が置かれた地域です。大磯駅から徒歩でアクセス可能な旧東海道沿いには、古い町並みや史跡が点在しています。特に大磯城山公園や旧吉田茂邸など、明治・大正期の歴史的建造物も見どころです。

祭りの開催される5月は、大磯海岸の潮風が心地よい季節です。大磯港では地元の海産物を活かした料理が楽しめる飲食店があり、祭礼後に立ち寄るのもよいでしょう。また、大磯町内には複数の神社が点在し、国府祭に参加する六社のうち六所神社が鎮座することから、神社巡りも楽しめます。

近隣には平塚市や二宮町などもあり、特に平塚八幡宮や寒川神社など国府祭参加神社へのアクセスも良好です。平塚市には商業施設や文化施設も充実しており、祭りと合わせて観光するのに適しています。大磯町自体は住宅地と歴史的景観が調和した落ち着いた町で、祭り以外でもゆったりとした時間を過ごせます。

関連情報

  • 国府祭は1978年(昭和53年)6月23日に神奈川県指定無形民俗文化財に指定された。
  • 参加する六社は以下の通り:一之宮・寒川神社(寒川町)、二之宮・川勾神社(二宮町)、三之宮・比々多神社(伊勢原市)、四之宮・前鳥神社(平塚市)、五之宮格・平塚八幡宮(平塚市)、総社・六所神社(大磯町)。
  • これらの六社を「類社(るいしゃ)」と呼ぶ。
  • 祭りは「神揃山での古式座問答」と「大矢場での神対面神事・国司奉幣・神裁許」の二部構成。
  • 座問答は、一之宮・寒川神社と二之宮・川勾神社の一之宮争いを儀式化したものと伝えられる。
  • 大矢場では各社のお囃子の競演が行われ、六所神社太鼓保存会、川勾神社(茶屋本陣囃子保存会)、比々多神社(三宮なでしこ囃子会)、前鳥神社囃子太鼓保存会、八幡囃子太鼓保存会、二十四軒町若宮囃子太鼓保存会の山車が並ぶ。また前鳥神社の里神楽が奉納される。
  • かつては祭りの当日「大矢場」に農耕具市が立ち、この市で農具を買うと豊作になると信じられていたが、現在は一般露天が多くなっている。
  • 六所神社の社伝によれば、「鷺の舞」は平安時代に国司をはじめ貴族をもてなすために舞われたとされる。
  • 三之宮・比々多神社の粽行事で撒かれる小餅は、粳(うるち)の粉を蒸かしてつき、指先でちぎり片で握って作ったもので、柏餅の原型とも言われている。

出典・関連リンク

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