概要

信玄公祭りは、戦国時代の名将・武田信玄の遺徳を偲び、毎年山梨県甲府市で開催される県内最大級の祭りである。メインイベントである「甲州軍団出陣」では、1000人を超える参加者が戦国武者姿で甲府市中心部を練り歩く様子が圧巻で、その規模から「世界最大の武者行列」とも称される。この祭りは、単なる歴史再現ではなく、地域住民が一体となって武田信玄の精神を現代に継承する場として、毎年多くの観光客が訪れる一大イベントである。

信玄公祭りは、甲府市の舞鶴城公園を中心に、甲府駅周辺の平和通りや城東通りなどのメインストリートを会場として行われる。祭りの起源は1947年(昭和22年)に始まった「桜祭り」に遡り、その後1970年(昭和45年)に現在の形へと発展した。2023年(令和5年)には過去最高の23万5000人の来場者を記録しており、山梨県の観光を代表する祭りとして定着している。

歴史・由来

信玄公祭りの前身は、1947年(昭和22年)4月に山梨県観光協会、甲府市観光協会、甲府市商工会議所の共同主催で開始された「桜祭り」である。この桜祭りは、花見の季節に合わせた商店街の春物大売り出しを目的として、甲府城舞鶴公園で開催された。最終日には武田神社の例大祭に合わせて神輿の渡御が行われ、地元の甲府市相川地区の住民が甲冑姿で騎馬行列を行っていたことが、現在の祭りの原型となった。

1960年代に入り、新笹子トンネルの開通や中央自動車道の開通を契機に、山梨県の観光振興のために「武田信玄」を前面に押し出したイベントへと模様替えする動きが生まれた。1966年(昭和41年)には「桜祭り」を「甲府信玄祭り」と改称し、民謡や踊り、剣道大会を中心とした内容となった。その後、信玄公像の建立や武田二十四将騎馬行列が主体の祭りへと発展し、1970年(昭和45年)4月12日に第1回「信玄公祭り・甲州軍団出陣」が開催された。

第1回信玄公祭りからしばらくは、県庁職員などが信玄公役を務めていたが、1988年(昭和63年)のNHK大河ドラマ「武田信玄」の放送を機に武田信玄への注目が一気に高まった。1995年(平成7年)からは俳優を信玄公役に起用するようになり、女性中心の時代行列なども加えられて、現在のような華やかで盛大な祭りへと進化を遂げた。2006年(平成18年)からは山本勘助役も有名人が演じるようになり、より一層の話題性を獲得している。

なお、信玄公祭りは2011年(平成23年)には東日本大震災の影響により35年ぶりに中止となり、2020年(令和2年)から2021年(令和3年)にかけては新型コロナウイルス感染症の影響で開催が見送られた。このように、社会情勢に左右されながらも、武田信玄の遺徳を伝える伝統行事として、地域住民の強い意志によって継続されてきた。

見どころ

甲州軍団出陣 甲州軍団出陣は、信玄公祭りの最大の目玉であり、戦国時代の名将・武田信玄が宿敵・上杉謙信と激突した「川中島合戦」に出陣する様子を再現する。1000人を超える参加者が甲冑や陣羽織など戦国武者姿で舞鶴城公園に集結し、甲府市中心部を練り歩く光景は、まさに一大戦国絵巻が現実のものとなったかのようである。この出陣の様子は、武田信玄の軍勢が実際に甲府の地を出立した当時の情景を彷彿とさせ、訪れる観客を一瞬にして戦国時代へと誘う。

風林火山の軍団 武田信玄の軍旗に記された「風林火山」は、「その疾きこと風のごとく、その徐なること林のごとく、侵掠すること火のごとく、動かざること山のごとし」という言葉の略である。信玄公祭りでは、この風林火山になぞらえて「風の軍団」「林の軍団」「火の軍団」「山の軍団」の4つの軍団が編成され、それぞれが異なる色や装束で出陣する。この分割は、単なる演出ではなく、武田軍が実際に部隊ごとに特色を持っていたことを反映しており、観客は各軍団の個性を比較しながら楽しむことができる。

赤備えの最強部隊 武田軍の中でも特に恐れられたのが、赤色の甲冑で統一された「赤備え」の部隊である。この赤備えは、飯富兵部少輔虎昌が率いていた隊が最初に身に着けたとされ、その後、弟の山県三郎右兵衛尉昌景に継承され、武田軍の最強部隊の象徴となった。武田氏滅亡後も、この赤備えの伝統は「井伊の赤鬼」と恐れられた井伊直政や、真田幸村(真田信繁)に引き継がれており、信玄公祭りで見られる赤備えの軍団は、日本の軍事文化における影響の大きさを実感させる存在である。

狼煙(のろし)のリレー 信玄公祭りの開幕を告げるのが、北杜市から韮崎市、甲斐市、甲府市へと順に上がる狼煙のリレーである。これは、敵の攻撃を告げる狼煙が各地より伝わり、本陣で出陣の準備を始める合図となる様子を再現している。実際に北杜市内には、佐久方面の信州峠や諏訪湖方面からの攻撃に備えて、4~5kmごとに狼煙を上げる烽火台がいくつも点在しており、その一部は現在も復元されて見ることができる。この狼煙リレーは、戦国時代の情報伝達システムを体感できる貴重な演出であり、祭りの始まりを一層ドラマチックに盛り上げる。

俳優による信玄公・勘助役 1995年(平成7年)からは、信玄公役に著名な俳優が起用されるようになり、さらに2006年(平成18年)からは山本勘助役も有名人が演じるようになった。過去には渡哲也、藤岡弘、宇津井健、沢村一樹、松平健、冨永愛など、時代を代表する俳優やタレントが信玄公役を務めてきた。このセレブリティ起用により、祭りへの注目度が格段に向上し、歴史ファンだけでなく幅広い世代の観光客を引き付ける効果を生んでいる。

出陣式の儀式 甲州軍団出陣に先立ち、舞鶴城公園では厳かな出陣式が執り行われる。ここでは、武将たちが集結し、戦勝を祈願する儀式や、勝ち鬨を上げる場面が見どころとなる。この出陣式は、単なるパフォーマンスではなく、実際の戦国時代における出陣前の儀礼を現代に伝える重要な文化的要素である。観客は、甲冑に身を包んだ武将たちが一糸乱れず行動する姿に、武士の精神性と規律の厳しさを感じ取ることができる。

開催情報・アクセス

  • 開催場所:山梨県甲府市舞鶴城公園、甲府駅周辺(平和通り、城東通りなど)
  • 開催時期:例年4月上旬(金曜日から日曜日までの3日間)。ただし、最新の開催日程・実施可否は必ず公式サイトで確認すること。
  • 主催:信玄公祭り実行委員会(やまなし観光推進機構)
  • 最寄り駅:JR中央本線・身延線「甲府駅」から徒歩すぐ
  • アクセス:甲府駅北口ロータリー、丸の内三丁目乗り場、甲府地方裁判所乗り場などに臨時バスが運行される場合がある。公共交通機関の利用が推奨される。
  • 駐車場:北東中学校、JA山梨厚生連駐車場、甲府市役所西庁舎などが臨時駐車場として利用可能。ただし、台数に限りがあるため、満車の場合は周辺の有料駐車場を利用するか、公共交通機関での来場が望ましい。

周辺情報

甲府市の中心部に位置する舞鶴城公園は、正式名称を「甲府城跡」といい、自然の石を積んだ石垣が天守台を中心に当時のまま良好に残っている。この石垣の価値が認められ、2019年(平成31年)2月26日に国の史跡に指定された。甲府城は武田信玄の時代には存在せず、信玄の本拠地は現在の武田神社がある躑躅ケ崎館であったが、甲府城跡の石垣は江戸時代初期の築城技術を今に伝える貴重な文化財である。県庁構内からは「楽屋曲輪」と呼ばれる遺構が見つかっており、なんと当時は温泉が湧き出ていたことも判明している。

武田信玄の本拠地であった躑躅ケ崎館跡は、現在「武田神社」として整備されており、甲府駅からバスで約15分の場所にある。神社はお堀に囲まれており、隣接する史跡公園には当時の館の広さを物語る史跡が残されている。信玄公祭りに訪れた際には、この武田神社に参拝し、信玄公が実際にこの地で戦国時代を生き抜いたことに思いを馳せるのも良い。また、北杜市内には狼煙を上げた烽火台の復元されたものを見ることができ、戦国時代の情報網の一端を垣間見ることができる。

甲府駅周辺には、信玄公祭りの期間中、多数の屋台や出店が並び、山梨県の特産品を楽しむことができる。特に、信玄公にちなんだ「信玄餅」や、甲府名物の「ほうとう」は、祭り気分を盛り上げる定番メニューである。また、甲府駅南口には武田信玄の銅像が立っており、信玄公祭りの期間中には線香を供え、煙を浴びることで信玄の知恵と勇気を授かるとする礼拝が行われる風習もある。

関連情報

  • 旗指物について:武田信玄の軍旗に記された「風林火山」の文字は、中国の古典「孫子」の一節に由来し、武田軍の軍団指針として知られる。信玄公祭りでは、この旗を掲げた軍団がそれぞれの特色を表現する。
  • 武田二十四将:武田信玄に仕えた主な家臣団を指す。信玄公祭りでは、甲州軍団出陣において、これらの武将に扮した参加者が行列に加わる。
  • 甲州軍団の構成:風林火山の4軍団に加え、本陣隊や武田時代隊など、複数の部隊が編成される。各隊は独自の装束や旗印を持ち、その違いを観察するのも楽しみの一つである。
  • 信玄公の命日:武田信玄の命日は4月12日(旧暦では4月12日、新暦では5月13日)とされる。信玄公祭りはこの命日近辺に開催されることが多く、墓前での供養や線香を立てる習慣がある。
  • 信玄公祭りの中止事例:上述の通り、2011年は東日本大震災、2020年・2021年は新型コロナウイルス感染症の影響により中止となった。これらの歴史は、祭りが地域の社会情勢と密接に関わってきたことを示している。
  • 公式情報の確認:信玄公祭りの最新情報は、やまなし観光推進機構が運営する公式サイトで確認することができる。日程や出演者、交通規制の詳細など、事前に最新の情報を入手してから訪れることを推奨する。

出典・関連リンク

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