概要

山形県上山市で毎年2月11日に執り行われる「カセ鳥(加勢鳥)」は、藁で編んだ円錐形の蓑「ケンダイ」をかぶった若者が「カッカッカー」という掛け声とともに市内を練り歩き、沿道の人々から手桶や柄杓で水を浴びせられる民俗行事である。江戸時代の寛永年間(1624年~1644年)に始まったとされるこの行事は、五穀豊穣や商売繁盛、火伏せを祈願する目的を持ち、小正月の来訪神行事としての性格を色濃く残している。現在は上山市民俗行事加勢鳥保存会が中心となり、上山城正門前広場での祈願式と演舞の後、複数の班に分かれて商店街や温泉街、消防署、警察署、スーパーマーケット前など市内各所を巡行する。

1959年(昭和34年)に有志によって復活した後、1986年(昭和61年)に保存会が結成され、秋田県の劇団わらび座の協力を得て、太鼓や笛の囃子に合わせた現在の演舞形式が整えられた。1990年からは約20年にわたり、加勢鳥が回らない郊外地域の全1万2千戸を訪ねる「事前加勢(出前加勢)」も実施された。行事の名称は「稼ぎ鳥」「火勢鳥」など諸説あるが、商売繁盛や火伏せの願いが込められている点で共通している。

歴史・由来

カセ鳥の起源は江戸時代初期の寛永年間(1624年~1644年)にさかのぼる。当時は「御前加勢」と「町方加勢」の二つの形態があった。御前加勢は毎年旧正月13日に上山城へ昇殿を許された高野村(現在の上山市高野地区)の若衆3人が御前で披露し、殿様が新しい手桶と柄杓で水をかけ、酒と銭一貫文でねぎらったという記録が残る。一方、町方加勢は旧正月15日に行われ、周辺各村から集まった若衆が商家の連なる町中を歩き、町人たちは火伏せや商売繁盛を祈ってご祝儀を出し、酒や切り餅を振る舞った。この二つの形式が、現在のカセ鳥の原型となっている。

明治時代に入ると、旧藩時代に重要視された行事として廃止の宣告を受け、御前加勢は廃止された。町方加勢は防火の慣習として一時継続されたが、1896年(明治29年)に廃止に追い込まれ、カセ鳥の歴史は一旦途絶えた。廃止に至った具体的な法令や行政措置の詳細は明確な記録が残っていないが、明治期の廃仏毀釈や風俗取締、祭礼統制の余波を受けたものと考えられている。

1954年(昭和29年)の周辺町村合併による新しい上山市の誕生を機に、旧上山と周辺町村を結びつけるコミュニティの核としてカセ鳥の復活が企図された。1959年(昭和34年)、有志によって復活が実現したが、復活当初の中心メンバーは誰もカセ鳥を実際に見たことがなく、古老や郷土史家の話を聞きながらの手探りの取り組みだった。復活当初は、カッパの上にケンダイを被り長靴を履いて練り歩いていたという。

1986年(昭和61年)に上山市民俗行事加勢鳥保存会が結成され、秋田県の劇団わらび座の協力を得て、「カッカッカー」の鳴き声に合わせた動きや太鼓・笛の囃子が創作され、現在みられるような演舞の形が整えられた。この過程で、衣装もさらしとわらじを用いる形へと見直された。保存会はこの活動が評価され、2016年度の第38回サントリー地域文化賞を受賞している。小正月に蓑をかぶった者が人家を訪ね「カッカッカ」などと鳴いて祝儀や餅を受け取る習俗は、かつて各地に広く存在し、秋田のなまはげなどが代表的である。山形県庄内町千河原の「ややまつり」も小正月に水を浴びる行事として知られるが、こちらは安産祈願を主目的とする。

見どころ

ケンダイをかぶった加勢鳥の姿 加勢鳥がかぶる「ケンダイ」は、藁を丁寧に編んで作られた円錐形の蓑である。このユニークな装束は、神の化身としての来訪者を表現しており、上部が尖った形状が特徴的である。加勢鳥はさらしを身にまといわらじを履いた姿で、神聖な存在としての風格を漂わせながら市内を練り歩く。

「カッカッカー」の掛け声と演舞 加勢鳥は「カッカッカーのカッカッカー」という独特の掛け声を発しながら、太鼓や笛の囃子に合わせて跳ねるように動く。この掛け声は遠い土地から来る神の声をまねたものとされ、一年の豊饒を祝う意味が込められている。演舞は保存会によって創作されたもので、リズミカルな動きと掛け声が観客を魅了する。

祝い水を浴びせる儀式 沿道の住民や見物客は、手桶や柄杓で加勢鳥に「祝い水」を浴びせる。この水には火伏せのまじないの意味があり、江戸時代の大火の際に火喰い鳥が空を舞って類焼を広げたように見えたことから、鳥に水をかけて火勢を鎮める願いが込められたという説がある。水を浴びせられた加勢鳥は身震いし、ケンダイに含んだ水を周囲に飛ばすこともあり、場を盛り上げる。

手ぬぐいやタオルを結び付ける習わし 加勢鳥の頭部に新しい手ぬぐいやタオルを結び付けることで、家内安全や商売繁盛を祈願することができる。結び付けられた手ぬぐいは、加勢鳥が練り歩く間に幾重にも重なり、カラフルな装飾となって行事に華を添える。この行為は、願いを託す人々の信仰心の表れである。

縁起物の藁の収集 ケンダイから自然と抜け落ちた藁は縁起物とされ、大切に保管される。この藁を女の子の髪に結いつけると髪が黒く美しくなると伝えられており、お守りとして持ち帰る人も多い。ただし、加勢鳥から直接藁を引き抜くことは禁止されており、自然に落ちたものだけを拾うのがマナーである。

火伏せの御札の授与 加勢鳥のそばには銭さし籠を持つ者が付き添い、見物客がご祝儀を入れると火伏せの御札が授与される。この御札は、家の火災除けとして玄関などに貼られる習慣がある。ご祝儀のやり取りは、商売繁盛を願う町方加勢の伝統を現代に伝えるものである。

開催情報・アクセス

  • 開催日時: 例年2月11日(建国記念の日)に開催。10時頃から15時頃まで。
  • 会場: 山形県上山市中心市街地・温泉街。祈願式は上山城正門前広場で行われる。
  • スケジュール: 10時に上山城正門前広場で祈願式(神事)を行い、10時30分頃から演舞。その後11時頃から14時頃まで、複数の班に分かれて市内を練り歩く。
  • アクセス: JR東日本奥羽本線・山形新幹線「かみのやま温泉駅」から徒歩約10分(会場の上山城まで。案内により7〜15分と幅がある)。車利用の場合は駐車場あり(台数に限りあり)。
  • 交通規制: 十日町商店街や二日町プラザ前などで、演舞時間帯に通行止めが実施される(演舞終了次第解除)。
  • 観覧料: 無料。ただし、ご祝儀として銭さし籠に寄付をすると火伏せの御札が授与される。
  • 最新の開催日程・実施可否は公式サイトで確認すること: 上山市観光物産協会(電話:023-672-0839)または公式サイト(http://kaminoyama-spa.com/)で案内されている。

周辺情報

上山市は山形県南東部に位置し、蔵王連峰の麓に広がる温泉保養地である。かみのやま温泉は開湯400年以上の歴史を持ち、湯治場として発展してきた。温泉街には旅館やホテルが立ち並び、カセ鳥の行事が行われる2月には、湯煙と雪景色が織りなす風情ある光景が広がる。上山城は天守閣から市街地や蔵王連峰を一望できる観光名所で、カセ鳥の祈願式の舞台としても知られる。

上山市は明治時代に養蚕で栄え、武家屋敷や旧家が残る歴史的な街並みも魅力である。十日町商店街や新丁商店街は、カセ鳥の練り歩きの主要ルートとなっており、行事当日は地元住民や観光客で賑わう。また、上山市は果物の産地としても有名で、さくらんぼやぶどう、りんごなどの季節の果物を楽しむことができる。

周辺には蔵王温泉スキー場や蔵王エコーラインなど、冬季のレジャー施設も充実している。カセ鳥の鑑賞と合わせて、蔵王の樹氷や温泉を楽しむ観光プランも人気である。かみのやま温泉駅からは山形新幹線で東京まで約3時間とアクセスが良く、日帰り旅行にも適した地域である。

関連情報

  1. カセ鳥の別称: 「加勢鳥」の他に「カッカドリ」「カセギドリ」「カセドリウチ」など、地域によって様々な呼称がある。名前の由来には、商売繁盛にちなむ「稼ぎ鳥」、火伏せにちなむ「火勢鳥」など諸説ある。
  2. 類似行事: 東北地方では、かつて小正月に蓑をかぶった者が人家を訪ねる習俗が広く存在した。秋田県の「なまはげ」が代表的である。山形県庄内町千河原の「ややまつり」も小正月の水行事として知られるが、主目的は安産祈願であり性格が異なる。
  3. 保存会の活動: 上山市民俗行事加勢鳥保存会は、2016年度の第38回サントリー地域文化賞を受賞し、地域文化の継承が評価されている。保存会は年間を通じてケンダイの制作や演舞の練習を行っている。
  4. ケンダイの制作: ケンダイは藁を手作業で編んで作られ、1つ1つ丁寧に制作される。保存会のメンバーが冬場に準備を行い、行事当日までに必要な数のケンダイを用意する。
  5. 事前加勢の歴史: 1990年から約20年にわたり、加勢鳥が回らない郊外地域の全1万2千戸を訪ねる「事前加勢(出前加勢)」が実施された。この取り組みは、地域全体の結束を高める役割を果たした。
  6. 火伏せの信仰: 江戸時代の大火の際に「火喰い鳥が空を舞って類焼を広げたように見えた」という言い伝えが、カセ鳥に水をかける火伏せの儀式の背景にある。また、水商売の繁盛を祈る意味もある。

出典・関連リンク

山形県の他の祭り

冬の祭り

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